アニメ制作費、既存の金額が本当に安いのかどうか考えてみた

前回の続き。
 
 
アニメの制作費は安いと言われてるけど、本当に今の金額ではやっていくことができないのかを考えてみます。
 
前提として、
・作画予算を450万円
・制作期間2ヶ月
・月給制
だとして考えます。
 
月給にして考えるのは、予算と期間を単価ではなく人月で考えた方が、それが適正なのかどうか分かりやすいと思ったから。

 月給制にしてみた

まずは2ヶ月、450万円の予算で普通の給料で雇える人数を考える。
 
50万を家賃光熱費等とすると、残り400万円。
1ヶ月200万で、平均1人20万円の給料にすると10人。
18万ベースで11人でもいけるかもだけど、今回はわかりやすく10人で金額も一律20万として考える。

10人で2ヶ月でテレビアニメ1本作れるか

本当に作れるかどうか、試しにスケジュール表を作ってみた。

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■Day1
 打ち合わせも終わってて、すぐに作業に入れる状態だと仮定。
全員でL/Oラフ原作業に入る。
 
単価制フリーランスの場合、ラフ原・第2原画別で1日平均5カットの作業して月20万円(原画単価4000円の場合)なので、全員5カット作業できるものとして10人で50カット。
 
■Day2
 ラフ原上がりが50カット出たので、1人が演出作業に入る。
演出作業は、1日30カット。ちょっと少ないけどしっかり見るならこんなもんかと。
 
ラフ原作業員は9人で上がり数45カット。
演出上がり30カット。
 
■Day3
 ここからは作監作業にも1人入る。
作監作業は25カット。
 
ラフ原8人作業で40カット。
演出上がり30カット。
作監25カット。
 
■Day8
 ここでラフ原作業が終わるので、8人はそのまま原画作業へ入る。
演出と作監は引き続き作業。
 
■Day12
 ラフ原演出が終わり、原画演出作業に入る。
 
■Day14
 ラフ原作監が終わり、原画作監作業に入る。
原画作監は、ラフ原時より多少ペース上がるので、1日30カットで。
 
■Day17
 原画が終わるので、そのまま動画作業へと入る。
1人1日20枚。8人で1日160枚。
 
■Day20
 原画演出が終わる。
色指定打ち込み作業入る。これは3日間ぐらいかな。
 
■Day23
 動画検査にも1人入る。
 
■Day25
 原画作監が終わり、動画作業に加わる。
ここからは、1人が動画検査しながら、残りの9人で動画作業。
 
■Day40
 動画作業が終わって、仕上げ作業に。
動画検査が抜けた後は、仕上げ検査が入れ替えで作業に入る。
なので仕上げ作業人数は9人。
 
■Day49
 仕上げ検査も終わり、全カット撮影入れが完了。
 

実際に可能かどうか

金額について

 絶対不可能という訳ではないという感じかな。
ただ金額としてはかなり安くギリギリの限界で回さざるを得ないので、人員的にもスケジュール的にも一切のバッファが取れず、何か問題が起きた瞬間に詰む。
 
実際には総作監や監督チェックが間に入るし、色指定背景打ち合わせや撮影打ちなんかもあるのでかかる工数はもっと増える。
制作進行がいないのでカットの管理や移動の問題もある。
 
全員が原画・動画・仕上げを専門職と同レベル・速度で出来るというのも正直あまり現実味がない。
正直作監1日25カットもほぼ無理だしな。
 
スケジュールだって実際はもっと短くなるのが常なので、もっと人数を増やす必要があるし。
 
そもそも元請けからグロスとして他社に発注する金額がこれなので原価ギリギリ過ぎる。
会社維持が精一杯で、設備投資とか人材育成に使える金額とか皆無。
 
会社でお金ストックもできないので、もし未払いや遅配が起きた瞬間に会社が回らなくなる。
 
そうならない為には、そりゃ動画単価下げたり机代を徴収しなきゃならないわな。
もしくはスケジュールは短くても数を回して売上げを増やすか。
でもスケジュールが悪いとコントロールがしづらくなるし、話数全体を担当する制作や演出、作監に負担が増えて結局疲弊するだけになってしまう。
 
要は、低賃金や過剰労働ありきで保ってる業界。
 
技術職なのに月給を20万とかで考えなきゃいけないってのがそもそもおかしいでしょ。
作監クラスでも25万とか30万で週休1日、ボーナス無しですよ。
 
月給制に置き換えて考えることで無理ゲーってことが良く分かった。
それを単価制にして、稼げないのは自己責任ていうことに上手く持っていってる。
そういう意味ではもの凄く良くできてた。
そろそろ破綻しそうだけどww 

スケジュールについて

正直スケジュールについては、10人アニメーターがいて集中して作業してくれるなら楽勝だった。
 
上手く管理できれば、スケジュールはラフ原から原画作監まで、1ヶ月かけずに作業できる。
上記の作監作業数はかなり盛ってるので、1人日産15カットの2人体制にするとかの工夫は必要だろうけど。
 
そうすると20日そこそこ(週休2日で1ヶ月弱)で原画作監までは終えられる。
 
京アニとかクレジットに載る原画スタッフ数少ないのは、全員社員でかけもちとか無く作業できる体制だからなんだろうな。

終わりに

 
アニメ業界は問題ばっかりではあるけど、逆に言えば改善すべき点が山ほど残されてるとも言える。
 
おかしい点をおかしいと言いつつ、何がどうおかしくて、どうしたら改善できるか考えて発信することで、少しずつでも良くなっていけばいいなぁと思う訳です。

テレビアニメの作画予算、安過ぎじゃない?

ちょっとタイトルで煽ってみましたw
 
ここ最近、アニメ業界の問題がいろいろと取り上げられてます。
 
 
業界のおかしな点が取り上げられて、問題が是正される流れになっていくのは大賛成です。
 
ただ、今の流れで1つ危惧することがあります。
個別の問題だけを取り上げてその点だけを改善したとしても、ツギハギ的な問題解決だと別のところに負担がかかって全体的な問題解決にならないんでは無いかという心配です。
 
動画の単価が安すぎるからって国内動画の単価を上げたとして、その代わりに原画や演出作監の単価や海外出しの動仕単価を下げるということであれば、結局そっちでも歪みができて新たな問題になってしまいます。
 
今問題になってることって、アニメ業界全体のシステムに起因してのことなので、そろそろ業界全体の在り方を考える時期にきてんじゃないかな。
 
考えるにあたって、具体性が無いとふわふわしただけの机上の空論になりそうなので、ある程度の数字も交えていこうかと思います。
 

作画の実際の予算

 
安い安いと言われるアニメの制作費、アニメーターの単価ですが、実際の予算は大体こんな感じで組まれてます。
スタンダードっぽい金額と枚数で作ってみました。
 

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テレビアニメ1話の作画予算ですね。
元請け会社がグロス会社に発注する際の金額です。
作品内容や予算によって、多少幅はありますが大きく外れてはないかと思います。
監督費・キャラデ・総作監・コンテ・音響・背景美術・撮影・編集等の費用は抜きでの、作画する上での予算です。
監督等は別途全体の予算の上で組まれてます。
 
大体テレビだとカット数は300カット、総枚数はリテイク込みで4500~6000枚ぐらいで組まれることが多いですね。
最近の作品がそれに収まってるかというと、そんなことはあまりなく、超過分は別途計上というパターンが多いかと。
 
これが安いか高いかは別として、実際にこれぐらいの金額をベースとして予算が組まれてるので、一旦はこれで考えていくことにします。
 

作画予算の解説

 
原画とか動画の金額については、この単価通りなので特に解説は必要ないかと思います。
ここでは、制作進行費と管理費について簡単に解説します。
 

制作進行費

 白箱で宮森あおいの職業ですね。

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原画マンや作監の追っかけをしつつ、全体の進捗、カット管理もするその話数の責任者です。
 
テレビアニメ1話あたりの制作期間は理想的なスケジュールでは2ヶ月で考えられてるので、単価×2で計算されます。
激務と言われる(実際激務です)制作進行が月15万というのは安く見えますが、常に他話数ともオーバーラップしながら作品を持つことが常なので、もう少し実際にはもう少し予算は乗る感じですね。
制作期間が少しずつ重なりながら、6ヶ月だと5本担当したりとか。
実際にその分が給料に反映されるかどうかは別ですが。
 

管理費

 
基本的に予算で項目がついて計上されるのは、実際に作業して発生する単価分のみです。
 
しかし実際にはそれ以外にも費用は発生します。
スタジオの家賃、電気光熱費、設定をコピーするコピー費や(結構バカにならない)、 車の維持費等です。
 
当初の予定より枚数が増えた場合、多少であればこの管理費で吸収してくれということもあります。
最近は超過分は別途請求OKな会社が増えてる印象ですが、中にはそうじゃない会社もあります。
 

 作画予算、安過ぎじゃない?

 
いかがですかね?
かなり厳しいと思うんじゃないでしょうか?
 
元請け会社であれば全体予算を握ってるので多少コントロールできますが、グロス主体で受けてる会社だと正直非常に厳しい金額です。
社長や経理(いれば)の給料なんかもここから出す訳ですからね。
 
だからグロス会社は、動画と仕上げ単価を例えば50円とか下げて海外にまとめて発注とかして予算を抑えたりしてる訳です。
50円×4500枚=225000円ですからね。
 
それでもお金がプール出来る訳では一切ないので、常時作品を回す必要があります。
まさに宿命づけられた自転車操業。
 
実際は2ヶ月も制作期間を取れる作品は減ってきてて、1.5ヶ月とかザラなので、期間が圧縮される分多くの作品が回せるようになってるというのはありますが、当然その負担は作品を動かしてる制作進行に乗りかかり、制作進行がどんどん辞めていく一因になってます。
 
最近取り上げられてる動画単価も、このシステムでは上がる見込みはほぼ無いです。
席代を取るとかはまた別の話として。
国内の動画単価を300円にしたところで、その分海外分を下げたりという話にしかならないし、そもそも300円単価じゃ食べていけないのは同じなのであまり変わらないです。
 

でも、本当に無理なの?

 
上記のやり方だとグロスで会社を維持していくのは普通に無理です。
元請けもよっぽど予算の出るキラータイトルを持ってこれないと厳しいでしょう。
 
でも、無理無理文句を言うだけじゃ何も変わらないです。
 
アニメの制作予算自体がすぐに上がる訳では無いですし(国とかがルールを決めて取り締りをしたら別ですが)、仮に予算が上がったところでどうせ末端スタッフへ還元されるとは思えないし、還元されたとしても原画200円とか動画50円上がったところで大した違いは無いです。いや実際それだけ上がったら特に動画とかはかなり生活楽になるとは思いますが根本的な解決ではないです。
 
次回、既存の予算でアニメ業界を回すのは無理かどうか考えてみたいと思います。

今の日本は、本来は豊かな生活を送る為の「手段」であった「働く」ということが「目的」になった労働教社会なのでは?

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昨今の長時間労働の問題について考えてたら、日本での人生においての仕事に対する価値観みたいなところに行き着いたので、その辺の流れをつらつらと書いてみます。
 
生活の為に働かなきゃいけないのは当然だとしても、もはや度が過ぎて働く為に生きてるのか、生きる為に働いてるのか分からないレベルになってる気がします。
 
それって戦後の高度経済成長時代の、悪い面だけがそのまま残ってるんじゃないかな。
 
戦後はモノも食べ物も少なくて、豊かな生活を手に入れる為には一生懸命働く必要があった訳です。
それが人口ボーナスもあり、欧米式のライフスタイルも入ってきて、テレビとか車とか新しい商品の需要が馬鹿みたいに高まってたので、いろんな物が作った分だけ売れた訳です。
売上を更に増やしたければ、働く時間を増やしてもっと沢山作って、営業時間を伸ばすだけで良かった。
 
でも今は、昔と違って食べ物もモノも溢れてて、簡単にはモノが売れなくなってる。
 
モノがいっぱいあるんだから、本来は昔と同じレベルで働く必要は無いはずだと思うのですが、「生活を豊かにする為に働く」という目的の部分だけを切り取って、「働く」って部分だけが上手く残されてしまってるから、ブラック企業とか長時間労働が無くならないという面があるんではないかと。
 
戦後は、国民一体となって一生懸命働いて日本を豊かにしようという思いがあったはずです。でも逆に、働けるのに働いていない人間は非国民だみたいなイメージもあったと思います。家でぐーたらしてる子供がいたりすると、恥ずかしくて外を歩けないみたいな。
 
そういう働かなきゃいけないというイメージと合わせて、働いた分だけ給料も貰え生活が豊かになったことで、
 
「働かないのは悪いことだ」
 ↓
「働いたらこんなに豊かな生活が送れる」
 ↓
「だからみんなもっと働こうよ」
 
というような感じで、益々人は働くべきだし働かなければいけないということが、社会的なコンセンサスとして強化されていったんじゃないかなと思います。
 
それで、本来は豊かな生活を送る為の「手段」であった「働く」ということが「目的」になっちゃってるんではないでしょうか。
 
もう宗教みたい。労働教。
 
それが今のブラック企業でも世間体とかを気にして辞めることができないということに繋がってるんじゃないかと。
 
そりゃ仕事を辞めると生活費等の現実的な問題はありますが、世間体とか仕事から逃げたと思われたりとか、そういう印象を作ることで次の仕事なんか決まらないというような脅しとか脅迫に近いものだったりとか、あと何週間かだけ頑張ろう今頑張ったら楽になるからとか偉くなってる人はみんな逃げずに頑張ったんだみたいな努力至上主義的なイメージとか、でも実は努力なんかじゃなく経営側の搾取を努力と言い換えてるだけだとか、でもそれがまかり通る世の中全体での印象操作とかもあるとは思いますが。
 
そういうのも全部ひっくるめての労働教。
今どれだけ辛く苦しくても、一生懸命身を粉にして働くことが幸せにつながるみたいな。
 
田舎を出て家族とも離れた都会で1人で暮らし、やりたいことも出来ず仕事ばっかりする人生で何が幸せなのかと。
 
そんな価値観さっさとゴミ箱に全力で投げ捨てましょう!