動画マンの待遇改善しないとガチでアニメ業界潰れちゃうよ?

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今話題のP.A.WORKSの動画マンの給料ですが、かなり叩かれてるけども、アニメ業界の中ではかなりマシな部類なんですよね。
 
他よりマシだからって、それで良いかどうかって言うとダメだけど。
労働時間と金額で考えると完全にブラック企業ですからね。
 

どうして動画マン給与制じゃなく、単価も安いのか?

アニメの動画枚数は増加傾向

 
アニメの制作上、動画はどうしても枚数が必要でコストがかかるので会社的には、コストを安く抑えたい。
その為に1枚当たりの単価を下げるという訳です。
 
東映なんかは厳しい枚数制限を付けて、1話当たりの制作費をしっかりコントロールしてます。
 
ところが最近のアニメは動く方がクオリティが高いとみなされて、枚数が増加傾向にあります。
その為、東映もいつからかは正確に知らないですが、ちょっと前から制限枚数を増やしていますしね。
 
つまり枚数を増やさないと、視聴者やクライアントからの要望に応えられなくなってる訳です。
 
そうなってくると、一番削りやすいコストは動画(&仕上げ)です。
 
特に最近は海外出しが当たり前になって、韓国中国もキャリアとノウハウが溜まってきたのと、各動仕会社の努力もあって海外でも発注の仕方によっては日本と遜色無いレベルで上がってきます。
さすがに電送動仕12時間にクオリティは求められないですが…。
 
要は、コストって観点で考えると国内動画の単価が上がる要因は無いということです。
 

スケジュールも問題

 
動画スタッフを固定給にした場合、手空きにならないよう常に仕事を入れておかなければいけない訳ですが、それをするのが非常に難しいということがあります。
 
動画って、作品が動いてて原画まで終わってないと、仕事が発生しないんです。
だから10月番だと、例えばP.A.WORKSはTVシリーズ作品がないので、動画の仕事は激減してるはずです。
前クール作品のDVDリテイクとか、動かしてる企画とかの仕事は当然あるでしょうけども。
 
自社仕事がないと、他社作品を外注として受ける必要があるんですが、このスケジュールが非常に良くない。
特に今期だと10月ですでに3本が万策尽きた状態で、動画仕上げ期間なんか各話数1週間もないのはザラです。
 
そうすると国内でも動画一回の発注スパンが2日、良くても3日とかになって、仕事の調整が非常にやり辛くなります。
海外だと300枚400枚余裕で受けられるけど、国内だと1人1日作業枚数10枚とか15枚で、スケジュールに見合った動画枚数のカットを発注する側の制作進行が見繕わなければいけない訳です。
そういう背景もあって、短いスパンの仕事をいろんな会社に営業して常に手が空かないように受注し続けなければいけないって、かなりの管理コストが必要になる訳です。
 
さらに外注で毎回違う作品を受けると、絵柄や原画のスタイルとかも違うので、当然作業効率も落ちます。
 
管理コストを上乗せした上で動画マン固定給分以上の仕事を取るのは正直不可能です。
200円の仕事から仮に1割りを管理費として仕事を取ったとしても、管理費で10万円稼ごうとしたら5000枚ですよ。
1人月500枚描くのも至難と言われてるので、5000枚の為に必要な人数的には10~20人ぐらいですかね。その分量の仕事を常時マックスまで入れる管理をして10万円。かなりの無理ゲーです。
 
完全にアニメーターの育成のつもりと割り切って、毎月管理者に給料を払うとなれば話は別ですが。
 
そこを割り切らないのであれば、単価制にしてれば管理費の心配は無くて済みます。
そこまで厳密な管理をしないのであれば、制作がちょこっと営業するぐらいの手間で、ある程度の仕事は取れますし。
 
上記2つの理由で、会社的には基本的に動画マンを固定給にはしたくない訳です。
 

逆に問題が分かれば解決策も考えられる

 
コスト面に関してはすぐどうこうは無理だと思います。
すぐに制作費が上がる訳でもないし、仮に上がったところで多くのアニメ会社の経済状況は良くないので、それをすぐに投資という訳にはいかないでしょう。
 
だから動画の単価が上がるということは期待できない。
というかそこに期待するのって実質何もしてないのと一緒ですし。
干ばつが続いてるからって雨乞いするみたいなもんです。
 
でもスケジュールと仕事の管理に対応する方法であればいくらか方法は考えられます。
 

動画マンが仕上げを覚える

いわゆる多能工化ですね。
動画しかできないから仕事が制限されて手を空かさず受注するのが難しいんだから、できる仕事を増やせば良い。
仕上げを覚えて動画の仕事が無い時は仕上げ作業をすれば良いんです。
色彩設計とか色指定検査とかは、色についてのセンスが必要でまた別の技術ですが、動画に色を塗るだけだったら簡単に覚えられます。
 
それで動画のみだったら2日間の仕事を、仕上げまで行うことで3日間に作業期間を延ばして受注すれば良いんです。
どうせ海外に動仕で出すのに、国内で動仕にしたらダメという理屈もないでしょう。
動画と仕上げ両方できたら、まず手が空くことはないです。他社で動画作業した分の、仕上げを受注するという手もあります。
 

動仕会社との提携

海外に現場を持ってる動仕会社と提携して、ある程度まとまった単位で動仕の仕事を受けて、できる範囲を日本国内でやりつつ、できない分を海外に委託。
 
例えば半パート2000枚をグロスで一週間のスケジュールで受ける。
500枚とかを社内でやって残り1500枚を海外に発注ということにしたら、社内分の500枚は1週間のスケジュールで作業できる訳で。カット内容の選別とかクオリティコントロールもしやすい。
実際は5日で作業して残りの2日は海外上がりの修正とかになるかもですが。
この方法だと、カットの管理者が必須になりますが、管理の費用分を抜いて海外に出すことで管理コストはカバーできる。
 
動画が描けて仕上げもできるアニメーターが10人いて、海外出しの体制ができれば15~20万ぐらいの固定給は保証できます。
動仕を受けまくって、その10人が海外上がりに修正してある程度クオリティを担保して納品できるとなれば絶対仕事は途切れない。
1日8時間のシフトで、空いた時間は原画の練習でもなんでもできるという体制を余裕で敷けます。
 

おわりに

ただ、結局は海外への単価を安く抑えてある種の搾取構造だから成り立つ訳です。
韓国はすでに日本とあまり変わらない単価で、今は中国の物価も上がってきてるので、上記の体制もできたとしてもあと数年という感じじゃないでしょうか。
 
中韓以外でフィリピンとかベトナムとか行ってる会社もありますけど、その国の物価が上がれば結局はまた違う国に発注と、完全にイタチごっこです。そんなんする前にまず動画予算上げろと。
 
動画描けなきゃアニメ作れないんだから、原画に上がる前提ではなく動画として食べていけるようなシステムに改善しないとホントにアニメ業界潰れちゃうよ?
 
似たような作品を粗製濫造するよりは、作品数減らして企画内容とクオリティしっかり練ったものを作るようにする方が良いかもだけど。
 
でも今年のアニメ映画の好調でまたアニメ本数、当分増え続けそうなんだよね。

アニメ制作費、既存の金額が本当に安いのかどうか考えてみた

前回の続き。
 
 
アニメの制作費は安いと言われてるけど、本当に今の金額ではやっていくことができないのかを考えてみます。
 
前提として、
・作画予算を450万円
・制作期間2ヶ月
・月給制
だとして考えます。
 
月給にして考えるのは、予算と期間を単価ではなく人月で考えた方が、それが適正なのかどうか分かりやすいと思ったから。

 月給制にしてみた

まずは2ヶ月、450万円の予算で普通の給料で雇える人数を考える。
 
50万を家賃光熱費等とすると、残り400万円。
1ヶ月200万で、平均1人20万円の給料にすると10人。
18万ベースで11人でもいけるかもだけど、今回はわかりやすく10人で金額も一律20万として考える。

10人で2ヶ月でテレビアニメ1本作れるか

本当に作れるかどうか、試しにスケジュール表を作ってみた。

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■Day1
 打ち合わせも終わってて、すぐに作業に入れる状態だと仮定。
全員でL/Oラフ原作業に入る。
 
単価制フリーランスの場合、ラフ原・第2原画別で1日平均5カットの作業して月20万円(原画単価4000円の場合)なので、全員5カット作業できるものとして10人で50カット。
 
■Day2
 ラフ原上がりが50カット出たので、1人が演出作業に入る。
演出作業は、1日30カット。ちょっと少ないけどしっかり見るならこんなもんかと。
 
ラフ原作業員は9人で上がり数45カット。
演出上がり30カット。
 
■Day3
 ここからは作監作業にも1人入る。
作監作業は25カット。
 
ラフ原8人作業で40カット。
演出上がり30カット。
作監25カット。
 
■Day8
 ここでラフ原作業が終わるので、8人はそのまま原画作業へ入る。
演出と作監は引き続き作業。
 
■Day12
 ラフ原演出が終わり、原画演出作業に入る。
 
■Day14
 ラフ原作監が終わり、原画作監作業に入る。
原画作監は、ラフ原時より多少ペース上がるので、1日30カットで。
 
■Day17
 原画が終わるので、そのまま動画作業へと入る。
1人1日20枚。8人で1日160枚。
 
■Day20
 原画演出が終わる。
色指定打ち込み作業入る。これは3日間ぐらいかな。
 
■Day23
 動画検査にも1人入る。
 
■Day25
 原画作監が終わり、動画作業に加わる。
ここからは、1人が動画検査しながら、残りの9人で動画作業。
 
■Day40
 動画作業が終わって、仕上げ作業に。
動画検査が抜けた後は、仕上げ検査が入れ替えで作業に入る。
なので仕上げ作業人数は9人。
 
■Day49
 仕上げ検査も終わり、全カット撮影入れが完了。
 

実際に可能かどうか

金額について

 絶対不可能という訳ではないという感じかな。
ただ金額としてはかなり安くギリギリの限界で回さざるを得ないので、人員的にもスケジュール的にも一切のバッファが取れず、何か問題が起きた瞬間に詰む。
 
実際には総作監や監督チェックが間に入るし、色指定背景打ち合わせや撮影打ちなんかもあるのでかかる工数はもっと増える。
制作進行がいないのでカットの管理や移動の問題もある。
 
全員が原画・動画・仕上げを専門職と同レベル・速度で出来るというのも正直あまり現実味がない。
正直作監1日25カットもほぼ無理だしな。
 
スケジュールだって実際はもっと短くなるのが常なので、もっと人数を増やす必要があるし。
 
そもそも元請けからグロスとして他社に発注する金額がこれなので原価ギリギリ過ぎる。
会社維持が精一杯で、設備投資とか人材育成に使える金額とか皆無。
 
会社でお金ストックもできないので、もし未払いや遅配が起きた瞬間に会社が回らなくなる。
 
そうならない為には、そりゃ動画単価下げたり机代を徴収しなきゃならないわな。
もしくはスケジュールは短くても数を回して売上げを増やすか。
でもスケジュールが悪いとコントロールがしづらくなるし、話数全体を担当する制作や演出、作監に負担が増えて結局疲弊するだけになってしまう。
 
要は、低賃金や過剰労働ありきで保ってる業界。
 
技術職なのに月給を20万とかで考えなきゃいけないってのがそもそもおかしいでしょ。
作監クラスでも25万とか30万で週休1日、ボーナス無しですよ。
 
月給制に置き換えて考えることで無理ゲーってことが良く分かった。
それを単価制にして、稼げないのは自己責任ていうことに上手く持っていってる。
そういう意味ではもの凄く良くできてた。
そろそろ破綻しそうだけどww 

スケジュールについて

正直スケジュールについては、10人アニメーターがいて集中して作業してくれるなら楽勝だった。
 
上手く管理できれば、スケジュールはラフ原から原画作監まで、1ヶ月かけずに作業できる。
上記の作監作業数はかなり盛ってるので、1人日産15カットの2人体制にするとかの工夫は必要だろうけど。
 
そうすると20日そこそこ(週休2日で1ヶ月弱)で原画作監までは終えられる。
 
京アニとかクレジットに載る原画スタッフ数少ないのは、全員社員でかけもちとか無く作業できる体制だからなんだろうな。

終わりに

 
アニメ業界は問題ばっかりではあるけど、逆に言えば改善すべき点が山ほど残されてるとも言える。
 
おかしい点をおかしいと言いつつ、何がどうおかしくて、どうしたら改善できるか考えて発信することで、少しずつでも良くなっていけばいいなぁと思う訳です。

テレビアニメの作画予算、安過ぎじゃない?

ちょっとタイトルで煽ってみましたw
 
ここ最近、アニメ業界の問題がいろいろと取り上げられてます。
 
 
業界のおかしな点が取り上げられて、問題が是正される流れになっていくのは大賛成です。
 
ただ、今の流れで1つ危惧することがあります。
個別の問題だけを取り上げてその点だけを改善したとしても、ツギハギ的な問題解決だと別のところに負担がかかって全体的な問題解決にならないんでは無いかという心配です。
 
動画の単価が安すぎるからって国内動画の単価を上げたとして、その代わりに原画や演出作監の単価や海外出しの動仕単価を下げるということであれば、結局そっちでも歪みができて新たな問題になってしまいます。
 
今問題になってることって、アニメ業界全体のシステムに起因してのことなので、そろそろ業界全体の在り方を考える時期にきてんじゃないかな。
 
考えるにあたって、具体性が無いとふわふわしただけの机上の空論になりそうなので、ある程度の数字も交えていこうかと思います。
 

作画の実際の予算

 
安い安いと言われるアニメの制作費、アニメーターの単価ですが、実際の予算は大体こんな感じで組まれてます。
スタンダードっぽい金額と枚数で作ってみました。
 

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テレビアニメ1話の作画予算ですね。
元請け会社がグロス会社に発注する際の金額です。
作品内容や予算によって、多少幅はありますが大きく外れてはないかと思います。
監督費・キャラデ・総作監・コンテ・音響・背景美術・撮影・編集等の費用は抜きでの、作画する上での予算です。
監督等は別途全体の予算の上で組まれてます。
 
大体テレビだとカット数は300カット、総枚数はリテイク込みで4500~6000枚ぐらいで組まれることが多いですね。
最近の作品がそれに収まってるかというと、そんなことはあまりなく、超過分は別途計上というパターンが多いかと。
 
これが安いか高いかは別として、実際にこれぐらいの金額をベースとして予算が組まれてるので、一旦はこれで考えていくことにします。
 

作画予算の解説

 
原画とか動画の金額については、この単価通りなので特に解説は必要ないかと思います。
ここでは、制作進行費と管理費について簡単に解説します。
 

制作進行費

 白箱で宮森あおいの職業ですね。

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原画マンや作監の追っかけをしつつ、全体の進捗、カット管理もするその話数の責任者です。
 
テレビアニメ1話あたりの制作期間は理想的なスケジュールでは2ヶ月で考えられてるので、単価×2で計算されます。
激務と言われる(実際激務です)制作進行が月15万というのは安く見えますが、常に他話数ともオーバーラップしながら作品を持つことが常なので、もう少し実際にはもう少し予算は乗る感じですね。
制作期間が少しずつ重なりながら、6ヶ月だと5本担当したりとか。
実際にその分が給料に反映されるかどうかは別ですが。
 

管理費

 
基本的に予算で項目がついて計上されるのは、実際に作業して発生する単価分のみです。
 
しかし実際にはそれ以外にも費用は発生します。
スタジオの家賃、電気光熱費、設定をコピーするコピー費や(結構バカにならない)、 車の維持費等です。
 
当初の予定より枚数が増えた場合、多少であればこの管理費で吸収してくれということもあります。
最近は超過分は別途請求OKな会社が増えてる印象ですが、中にはそうじゃない会社もあります。
 

 作画予算、安過ぎじゃない?

 
いかがですかね?
かなり厳しいと思うんじゃないでしょうか?
 
元請け会社であれば全体予算を握ってるので多少コントロールできますが、グロス主体で受けてる会社だと正直非常に厳しい金額です。
社長や経理(いれば)の給料なんかもここから出す訳ですからね。
 
だからグロス会社は、動画と仕上げ単価を例えば50円とか下げて海外にまとめて発注とかして予算を抑えたりしてる訳です。
50円×4500枚=225000円ですからね。
 
それでもお金がプール出来る訳では一切ないので、常時作品を回す必要があります。
まさに宿命づけられた自転車操業。
 
実際は2ヶ月も制作期間を取れる作品は減ってきてて、1.5ヶ月とかザラなので、期間が圧縮される分多くの作品が回せるようになってるというのはありますが、当然その負担は作品を動かしてる制作進行に乗りかかり、制作進行がどんどん辞めていく一因になってます。
 
最近取り上げられてる動画単価も、このシステムでは上がる見込みはほぼ無いです。
席代を取るとかはまた別の話として。
国内の動画単価を300円にしたところで、その分海外分を下げたりという話にしかならないし、そもそも300円単価じゃ食べていけないのは同じなのであまり変わらないです。
 

でも、本当に無理なの?

 
上記のやり方だとグロスで会社を維持していくのは普通に無理です。
元請けもよっぽど予算の出るキラータイトルを持ってこれないと厳しいでしょう。
 
でも、無理無理文句を言うだけじゃ何も変わらないです。
 
アニメの制作予算自体がすぐに上がる訳では無いですし(国とかがルールを決めて取り締りをしたら別ですが)、仮に予算が上がったところでどうせ末端スタッフへ還元されるとは思えないし、還元されたとしても原画200円とか動画50円上がったところで大した違いは無いです。いや実際それだけ上がったら特に動画とかはかなり生活楽になるとは思いますが根本的な解決ではないです。
 
次回、既存の予算でアニメ業界を回すのは無理かどうか考えてみたいと思います。